医療訴訟の過失論 3
〜 説明義務総論
中小企業法務研究会 医療訴訟部会 弁護士 山岸 佳奈 (2014.08)
事 例: X1はX2を出産したが、X2の姉・兄を出産した時の事情からX2に黄疸が出て重篤な状態になることを懸念した。しかし、Y医師はX2の血液型不適合はないとの誤った判定をした上、その後黄疸が出たX2について「血液型不適合はなく黄疸が遷延するのは未熟児のためであり心配はない」と説明した。
Y医師は黄疸が消えないままX2を退院させ、その際「何か変わったことがあれば医師の診察を受けるように」とだけ言った。その後、X2の黄疸はひどくなったが、医師の言葉を信頼したX1はX2を病院に連れていくのが遅れ、そのためX2に脳性麻痺が残った。
解説
説明義務は、一般的に次の2つに分類されます。
1 診療行為としての説明義務
これは、療養方法の指示・指導など、診療のために必要な情報を患者に提供する義務のことを言います。上の事例におけるY医師の説明義務はこちらに分類されます。最高裁は、Y医師が「退院させるにあたって・・・黄疸が増強することがありうること、および黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときは速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務」に違反したと認定しました(最判平成7年5月30日民集175号319頁)。
医師がこの義務を怠った場合、それによって生じた患者の死亡・後遺症等に対して責任を負うことになります。
2 患者の有効な承諾を得るための説明義務
これは、患者が特定の医療行為を受けると決定するに際して必要な情報を患者に提供する義務のことを言います。提供すべき情報の内容としては、実施しようとする医療行為の内容、医療行為に伴う危険性、他に選択可能な治療方法の有無・内容等があります。これらの情報の提供を怠った例については、次回以降ご紹介致します。
  医師がこの義務を怠った場合、患者の死亡・後遺症等との因果関係の認定が難しく、多くの場合は、患者の自己決定権が侵害されたことに対しての責任を負うにとどまります。
なお、説明の相手方は、原則として患者本人ですが、例外的に患者本人に説明する必要がない場合があります(患者本人に説明を理解する能力や判断する能力がないと思われる場合、説明によって患者の不安が助長されかえって悪影響が懸念される場合、緊急を要し患者に説明する時間的余裕がない場合など)。もっとも、この場合、患者の家族等に説明する義務が発生する可能性があります。末期がん患者へ告知をしなかった事案について、最高裁は、「家族等の協力と配慮は、患者本人にとって法的保護に値する利益である」との理由から、「医師は、診療契約に付随する義務として、少なくとも、患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し、同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し、告知が適当であると判断できたときには、その診断結果等を説明すべき義務を負う」と判示しました(最判平成14年9月24日民集207号175頁)。