書面作成の技術
5 長い文章からの卒業
中小企業法務研究会 訴訟戦略部会 弁護士 笹山 将弘 (2014.08)
1 弁護士の文章は長い
「民法○○条はAであるところ、BはCであるから、Aに該当する」
「AがBであることに鑑みると、Cだと考えたとしても不相当とはいえない一方・・・」
弁護士の文章は長いものが大変多いです。長いというのは、「一文が長い」ことと、「量が多い」ことの両方を意味します。
なぜ弁護士の文書は長いのでしょうか。
「量が多い」理由には、次の二つくらいが挙げられると思います。
- @ 依頼者から直接、話を聞くため
- A 短くメリハリをつけた文章にすると、重要な部分を書き落としてしまうのではないかという不安があるため
弁護士は、依頼者から直接聞き取りを行います。繰り返し打合せを行います。そして、その結果を訴訟活動に反映します。まさに依頼者と共に戦うわけです。
依頼者には様々な思いがあります。訴訟の結果に直結するものも、しないものも、様々な思いがあります。
そんな依頼者から聞き取りを行った弁護士は、それはもう依頼者の代わりに言いたいことがいっぱいある訳です。ついつい言い(書き)過ぎてしまいます。裁判所にも完全に事情を知ってほしいと思ってしまいます。
これが、文章が長くなる一つの理由ではないかと思います。
また、「一文が長い」理由は、接続詞を多用するからではないかと思います。
文を接続詞で繋いで一文を長くした文章には、格調が出ます。現に専門書や研究論文では、格調を出すためか、一文が長いものが多いです。
弁護士は、受験勉強中も弁護士になってからも、法律の専門書や論文をよく読みます。そのため、接続詞で繋いで一文を長くした文書に慣れてしまっているのかもしれません。
2 「量を少なく」する方法 ------ 目的を意識せよ
しかし、目的を意識しましょう。裁判の目的は勝利です。勝利のためには、「量が多い」とか「一文が長い」ことは、全くプラスになりません。
裁判に努力点はありません。量を書けば勝てるなどという甘い世界ではありません。弁護士は、忙しく、かつ、好意的に文章を読んでくれない裁判官を相手にして、文章を書きます。
訴訟の結果に直結しないことをだらだら書いて、プラスに働く訳がありません。
我々は依頼者の思いを代弁します。しかし、それは、あくまで訴訟での勝利のために代弁するのです。依頼者の思いは訴訟に勝ってこそ結実すると理解すべきです。
思い切ってメリハリをつけましょう。書きたいことを全部書けばいいのではありません。訴訟に勝つという目的を忘れず、何を書くべきか、常に優先順位を意識すべきです。
例えば、さほど重要ではないが、文章で説明しようとすると説明が長くなるような場合があります。そんな場合には、その部分を思い切って全部カットすることを検討すべきです。
重要なのは訴訟のポイントを的確に突くことです。重要性の低い部分に分量を割いて、ポイントがぶれるのは望ましいことではありません。
短い文章にして裁判所が言い分を理解してくれない不安もあるでしょう。しかし、それは文章が短いことが原因ではありません。訴訟で最もポイントになるところを、短い文章でわかりやすく伝える能力がないことが原因だと心得るべきです。このことを肝に銘じるべきです。
3 「一文を短く」する方法
(1) 接続詞を全部カットする
一文が短くなり、文章のリズムが出てきます。読みやすく、理解しやすい文章になります。
但し、接続詞を全部カットすることで、逆に文章相互の関係がわかりにくくなることもあります。あくまで文章を短くする視点の一つとして捉えて下さい。
(2) 形容詞や副詞はカットする
弁護士は形容詞や副詞が大好きです。例えば、「明白に認められる」とか「全く根拠がない」といった具合です。
しかし、「明白」、「全く」など不要です。付けても付けなくても何も変わりません。そうであれば付けるべきではありません。
また、「明白」とか「全く」という評価に関わる記載をすることの危険性もあります。あんまり「明白」でないのに「明白」とか言っちゃうと、「ほんまかいな」、「何言うてんねん」となりやすくなります。なお、評価を書くことの危険性は次回に掲載する予定です。
(3) 同じ意味の言葉は短い方へ
× チキンライスを薄焼卵でくるんで皿に盛り、当該薄焼卵の上にケチャップを適量かけた料理
○ オムライス
ここまでわかりやすいのは中々お目にかかれませんが、短い言葉に言い換えができないかも常に検討する必要があります。
とはいえ、短い言葉に置き換えることで、訳がわからなくなることもあります。代表格が専門用語や略語です。
× ADL上、問題なし
〇 日常生活動作上、問題なし