医療過誤訴訟の特徴
〜診療経過の争点整理
中小企業法務研究会 医療訴訟部会 弁護士 山岸 佳奈 (2014.03)
1 はじめに
医療過誤訴訟は、患者側から病院側に対して不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償請求をするものですので、患者側に損害賠償責任を基礎づける事実の立証責任があります。しかし、証拠が病院側に偏在しているという事情から、過失の認定の前提となる診療経過に関する主張及び証拠の提出の負担を病院側にも課す運用がなされています。
2 事実の主張
事実の主張整理は診療経過一覧表によって行われます。診療経過一覧表とは、診療という客観的な事実経過について、争いのない事実、各当事者の主張する事実及び証拠を一覧性のある表にまとめたものです。
原告(患者側)が訴状を提出した段階では、原告が証拠保全や訴え提起前における証拠収集の処分、任意開示等によって得た情報しか明らかになっていません。そこで裁判所は、第1回口頭弁論期日において、被告(病院側)に対し、次回の弁論準備期日までに被告の診療経過一覧表を作成するよう求めます。
被告が診療経過一覧表を提出すると、これに対して、原告が原告記載欄に認否及び原告の主張する診療経過を記載します。
その後は、被告が原告の主張する診療経過の認否を行い、認めるのであれば争いのない事実として当初の診療経過記載欄に追加します。認めない場合には、原告の主張する事実として原告記載欄に記載を残します。これを繰り返して完成した診療経過一覧表によって、最終的な当事者の主張と争点が明らかになります。
3 証拠の提出
医療訴訟における診療経過の主な証拠は、診療録や看護記録です。被告の診療経過に関するこれらの証拠についても、第1回口頭弁論期日において、裁判所から被告に対し、次回の弁論準備期日までに提出するよう求められます。被告は、診療録を翻訳した上で提出することになります。
なお、医療訴訟における書証は、A号証・B号証・C号証に振り分けられ、診療経過に関する書証はA号証として提出します。