書面作成の技術
2 一番言いたいことは初めに書こう
中小企業法務研究会 訴訟戦略部会 弁護士 笹山 将弘 (2014.03)
ある男性のラブレターです。 「僕は活発な女性がタイプだ。 君と初めて二人で出かけた先は動物園だったよね。それからというもの、君とはいろいろな所に出かけたね。登山にも行ったね。海にも行ったよね。そうそう、遊園地にも行ったよね。君と出かける先は、大半がアウトドアだったね。君はアウトドアでのお出かけをすごく楽しそうにしてくれていたね。そう、君は活発な女性なのだね。だから、僕は君が好きだ。」
いかがでしょうか。
まず、「活発な女性が好き」という規範・ルールが提示されています。その次に、「君」という女性が活発であることの分析があります。最後に、「活発な女性が好き」という規範・ルールに、「君」が当てはまることで導かれる「好き」という結論が述べられています。極めて論理的な文章です。
しかし、実際に読んでいる「君」からすると、どうでしょうか。結論にたどり着くまでの長いエピソードの途中、「なんのこっちゃ」と思うのではないでしょうか。途中のエピソードが長くなればなるほど、「なんのこっちゃ」が大きくなり、文章を読んでいる「君」の集中力や、文章を理解しようという意欲が削がれていきます。
前稿でも書きましたが、裁判官は多忙です。「君」のように男性からの手紙を、「好き」という結論にたどり着くまで、どきどきしながら読み進めてはくれません。理解しようという気持ちで読み進めてはくれません。
訴訟での文章では、読み手である裁判官の興味を引く必要があります。最後まで読まなければならない内容だとわかってもらう必要があります。そのためには、まず、一番言いたいこと(結論)は初めに書かなければなりません。「君が好きだ」という結論は初めに示さなければなりません。「君が好きだ」とまず伝えて、なぜ好きだと思ったのか等、その後に続く文章に興味を持ってもらう必要があるのです。
その他にも、最初に結論を示すことには、
- @ 最初に示された事項には強い印象が残るという初頭効果。
- A 初めてその文章に接する人が、簡単にその文章の内容に入ることができる効果。
- B 忙しい人や理解力に乏しい人(裁判官が皆優秀とは限りません)でも、文章の内容が理解しやすい。
という効果が期待できます。
なお、最初に結論を示すことによる様々な効果は、何も文章に限ったものではありません。口頭での説明やプレゼン、交渉等、ビジネスや社会生活一般に共通するものです。(次号続く)