弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

『評価』に注意

    中小企業法務研究会  訴訟戦略部会  弁護士  笹山  将弘 (2014.12)

1   事実のススメ

日常生活で「評価」は入り乱れています。「直後」、「高い」、「大雨」、「暗い」、「優しい」、「冷たい」などなど。ここでの「評価」とは、「なんとなくイメージはわくけれど、厳密に考えると何を言っているのか一義的に確定しない」言葉という感じでしょうか。 評価を書くことに意味はありません。よく考えると、何を言っているのかよくわからないからです。評価はいわば結論です。ですから、説得的な記述をするためには、そのような評価(結論)にたどり着いた根拠が示される必要があります。この根拠が「事実」です。

例えば、「大雨」という言葉で考えてみましょう。 大雨という評価(結論)にたどり着くためには、少なくとも雨が降っているという事実(根拠)が必要です。しかも、その雨の「量が多い」ということに結びつく事実(根拠)も必要です。例えば、「この1時間で103mmの雨が降った」、「気象庁によると、大阪での4月の月間平均雨量は103.8mmである」という事実を足してあげます。すると、「めっちゃ雨降っているやん」と思える、という具合です。ポイントは、「事実を述べるのだ!」と言って、「103mm降りました!!」とだけ言っているのでは不十分だということです。「103mm」の意味がわからないからです。

先ほどの例は極端な場合でした。1時間で1ヶ月分も雨が降ってくれれば、それはみんな大雨だと思うでしょう。しかし、こんなわかりやすい場合ばかりではありません。
   ではどうするか。例えば「1時間に10mmの雨」ならどうでしょう。どうすれば大雨だと伝えられるでしょうか。
  
  仮に、「文字では伝えようがないな」と思ったとします。「文字ではインパクトが出ないな」と思ったとします。そんな時はビジュアルを検討してみましょう。1時間に10mmの雨を再現して、写真や動画におさめてみたらどうでしょう。文字ではわからなくても、画像や映像を見れば、「こりゃ大雨だ」と思ってくれるかもしれません。裁判では、このような工夫は、提出する書面に画像を張り付けたり、再現の写真や動画自体を証拠で提出したりして行います。そうすると、書面の作成技術のお話から、立証方法のお話に移ってくることになります。このように、文章作成の思考方法は、弁護士が行う訴訟活動の全ての場面に有機的に繋がってくるわけです。

評価(結論)の根拠となる事実(根拠)を書くことは、裁判官からも要求される事柄だろうと思います。
   極端に言うと、裁判官は、「評価」をする仕事です。「こういう事実があれば、こういう結論を導く」という評価をする仕事です。だから、まず欲しいのは「事実」のはずです。
   しかも裁判官は、「評価」はお手の物ですが、具体的な事件で起こった事実については、全く知りません。これが神様と裁判官の違いです。事実は、我々弁護士が明らかにしなければ、裁判官にはわからないのです。

2   評価を全く書かないのもナンセンス?

では、評価は全く書かないのが正解なのでしょうか。
   個人的には、評価を書くことは控えるべきだと思っています。適切に事実を紡いでいけば、自ずと読み手の頭に、結論が浮かび上がってくると思うからです。
   ただ、裁判官を、特定の評価(結論)を導きたい場合には、文章の締めくくり的に評価を書くことがままあります。
   とはいえ、「評価」の書き過ぎは厳禁です。 誰もがそう思う「評価」を締めくくりに書くならまだいいです。しかし、誰もがそう思うとは言いきれない「評価」は、「評価」の押しつけになります。読み手に「ほんまか」とか「そうかなぁ」という反発を招く危険があります。

もしちょっと無理な「評価」に導きたいのであれば、今回の事件では特別に、普通は無理な「評価」認められるのだという特殊事情(事実・根拠)をしっかり書くべきです。単に導きたい評価だけを書けばいいというものではありません。

3   評価を導く事実がない時はどうするか

その時は潔く諦める・・・訳にはいきません。
   そんな時は、元々「評価」が持っているイメージに頼ってみましょう。
   例えば、「夫の態度が冷たかった」という評価(結論)を導きたいとしましょう。しかし、奥さんにいろいろ話を聞けども、どうも「夫が冷たかった」という結論にピンときません。そんな時は、「態度が冷たい」という言葉の持つイメージに頼ります。単に「夫の態度が冷たかった」と書けば、一応、こちらの言いたいこと自体はわかってくれます。我々には「冷たい」という言葉で一応抱くイメージがあります。その各自の頭の中にあるイメージに便乗する訳です。後は、奥さんが話す夫の冷たいエピソードの中から、まだましなものをセレクトし、「〜をする等、夫の態度は冷たかった」等と書くと、中身の全くない文章にはなりません。

逆に言うと、相手方の書面で、具体的な事実がなくて「評価」だけ書いてあるものにお目にかかれば、「中身がない」とか「具体的なエピソードがない」のだと察するべきでしょう。そこが相手の弱点なのです。
  ただ、このごまかしとも言える方法は、まさに「諦めるよりはまし」というに過ぎません。「事実」がなければ、ごまかしに走るのではなく、今導きたいと思っている「評価」を一旦捨てて、もっと説得的な別の「評価」を考える等の方向転換した方がいいかもしれません。