弁護士法人英明法律事務所の事務所報『Eimei Law News 』より、当事務所の所属弁護士によるコラムです。

残価設定型クレジットの評価損

  〜残価設定型クレジットによって自動車を購入した場合、評価損をどう考えるべきか(横浜地判平成23年11月30日・交民44巻6号1499頁)

    中小企業法務研究会  交通事故部会  弁護士  笹山 将弘(2014.12)

1    残価設定型クレジットとは

残価設定型クレジットとは、自動車の分割(ローン)払いの一つである。
   例えば、300万円の自動車を購入する場合を考えてみよう。最大の特徴は、購入時に、3年から5年後の当該自動車の買い取り保証額を設定することにある。仮に買い取り保証額を100万円としてみよう。この場合、ユーザーは、元々の購入価格の300万円から、買い取り保証額の100万円を差し引いた200万円についてだけ返済していけばよい。

このように、残価設定型クレジットでは、通常のローンよりも、買い取り保証額分だけ返済する金額が少なくなる。
   残価設定型クレジットで購入した場合、3年から5年後には、必ず自動車を買い取ってもらわないといけないか。そうではない。買い取り保証額の100万円で買い取ってもらうこともできるし(これで残代金はゼロになる。)、当該自動車を使い続けるために残代金(買い取り保証額)100万円の返済を継続することもできる。
   なお、買い取り保証額には減額事由がある。一般的には、規定以上の損傷や走行距離が減額事由とされることが多い。

2    残価設定型クレジットの交通事故損害賠償実務上の位置付け

残価設定型クレジットでは、交通事故により自動車が損傷した場合、修理を施したとしても、買い取り保証額の減額が生じ得る。これはまさに「事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合」(評価損)に他ならない。残価設定型クレジットの買い取り保証額の減額は、評価損の問題と位置付けることができる。

3    横浜地判平成23年11月30日・交民44巻6号1499頁について

上記地判は、事故発生前に、当該自動車の使用継続ではなく、買い取りを選択していた事案についてのものである。 要旨は次の通りである。

  • ■自動車の買い取り保証額の低下は、事故による損害(評価損)である。
  • ■仮に自動車を使用継続する場合には買い取り保証額の低下は問題とならなくなる。しかし、既に買い取りを選択していた被害者が、事故が生じたからといって、選択の変更を強制されるいわれはない。

4    考察

上記地判は、あくまで事故発生前に既に自動車の買い取りが選択されていた事案についての判断である。そのため、買い取りか使用継続かを未だ選択していない時点で事故が発生した場合には、別の考慮を要する。

評価損とは、仮に事故後に自動車を転売する場合に、その事故歴等を査定上不利に評価される見込みを損害とするものである。このような仮定や見込みは、厳密に言うと、事故の時点では評価できない。転売しないかもしれないからである。そのため、評価損は、上記地判も指摘する通り、交通事故損害賠償実務上は、修理金額の何%という雑駁な評価がされている。なお、大阪地裁では、修理金額の10%から30%を評価損とする例が多い(大阪地裁民事交通訴訟研究会編著『大阪地裁における交通事故損害賠償の算定基準[第3版](判例タイムズ社・2013年)64頁』)。

このように、評価損とは元々「擬制」された損害であり、通常は「現実化」していない。上記地判の理論は、たまたま評価損が「現実化」した場合に、原則通り、その現実化した損害を認定したものと理解できよう。このような理解からすると、買い取りか使用継続かを未だ選択していない時点で事故が発生した場合には、評価損が「現実化」していないとして、買い取り保証額と同額の評価損は認められないものと思われる(ただ、修理費用の何%という、通常の評価損が認められる余地は当然ある)。

元々、評価損とは、単に事故歴ができたことだけでも認容され得るものである。ただ、実際には、単に事故歴があるだけでは足りず、自動車の損傷箇所等も判断要素とされることが多い。また、裁判例を概観すると、評価損の認定に際し、現に事故車を転売した場合であっても、その自動車の時価と実際の転売価格との差額を評価損として認めないものもある。このように、裁判所は評価損に対して厳格な評価をしてきた。このような裁判所の態度からしても、上記地判の存在によって、およそ残価設定型クレジットの場合に常に買い取り保証額と同額の評価損が認められることにはならないものと思われる。いずれにしても、今後の裁判例の集積を待つ必要がある。